僕は、あの一行に羨望を感じたな

  • (日経/春秋 2012/7/2付)作家の三浦哲郎が、生涯の師と仰いだ井伏鱒二をはじめて訪ねた日の思い出を残している。「君、今度いいものを書いたね」。「僕は、あの一行に羨望を感じたな」と言ったという。なにより、若者の才能をまっすぐ敬う井伏の器の大きさに感じ入る。ことしの新入社員のうち定年まで今の会社で働きたいという若者の割合は、34.3%で過去最高だそうだ。会社勤めにつきものの人間関係のあつれきを想像する。年齢差、知識、経験。さまざまな鎧(よろい)を厚く身にまとった上司と徒手空拳の新入社員がぶつかり合うこともあろう。厳しさの中に、若者をまっすぐ敬うことを拒む無用の沽券(こけん)がふと忍び込むことはないか。辞めたいという気持ちがもたげるこの時期の葛藤をなだめすかして、新入社員は4カ月目に入った。その背を押すのが、井伏のような度量である。

=>(JN)人は良く、自分よりも優秀な者よりそうでないもや言うことを聞く者を昇進させ、自分の地位を安定させようとする場合がある。それでは組織は低迷してしまうし、その国は没落していく。人の力を認めることは難しいが、ちょっと羨望を感じたら、そこを大事にしたい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO43270380S2A700C1MM8000/