(日経「春秋」2013/8/16付) 「世界中の人間はみんな同じ性質で結ばれているんですな」。東京裁判の最中、1946年秋にA級戦犯が墨でしたためた寄せ書きがアメリカでみつかった。日系の米兵看守に贈られたものだという。写真に見えるかぎり、署名の前に中国の古典や仏教典から引いた一言を書き添えた例が多い。「ひがし西大平洋につながれてくさびとならむ人ぞ尊き」。寄せ書きにはもうほとんど目にしない熟語がある。そこにこもる心情をいま推し量るのは難しい。他方、一言を添えず名だけ記した何人かがいる。胸には異なる心情が宿ったのだろう。ただはっきりしているのは、名を連ねた人たちが戦時の日本を指導する立場にいたことである。寄せ書きの写真を眺め、のこった教訓めいた言葉を時に辞書で調べながら、思い出した川柳がある。「国境を知らぬ草の実こぼれ合ひ」(井上信子)。70歳を過ぎた一女性が40年に発表した句の方がどれだけのびやかなことか。
(JN) 何を思ってこの方々は寄せ書きをしたのか。未来の者への希望があったのか。彼らが成し遂げたかったことと、現在はどのように違いがあるのか。世界の人々は結ばれているのであろうか。トロイ戦争はまだ今も続いているのではないか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO58558790W3A810C1MM8000/