「夜明けのコーヒー 二人で飲もうと〜」

(日経「春秋」2013/10/29付) 同じホテルに泊まるフランスの若い俳優が歌手の越路吹雪に声をかけた。「あす朝早く二人でコーヒーを飲もう」。うなずいた越路さん、約束を守ろうと翌朝、眠い目をこすり彼の部屋をノックすると、彼は一睡もせず待っていた……。朝のコーヒーを一緒に飲もうとは、一夜をともにしようという誘いなのだと。この逸話を気に入ったのが越路吹雪を家族のように支えた作詞家の岩谷時子さんだった。かくして後年、ピンキーとキラーズの「恋の季節」に「夜明けのコーヒー 二人で飲もうと〜」の一節が盛り込まれたのである。25日に97歳で死去した岩谷さん、その詞の真骨頂は、若者の恋心や冒険心をまっすぐモダンにうたうところにあった。「恋の季節」がそう。加山雄三さんの「君といつまでも」や「旅人よ」も、訳詞「愛の讃歌」もそうだった。辻井喬堤清二)さんが、昭和20年までとそれ以後とは異なる時間が流れているのだから「昭和は遠くなりにけり」とは表現できない、と書いていて、納得した記憶がある。岩谷さんの訃報には、「戦後は遠くなりにけり」の一言を添えておきたい。
(JN) 知らないという事は幸せであるか。不幸であるか。越路吹雪さんはそれからどうであったのか。ところで、「夜明けのコーヒー 二人で飲もうと〜」にこんな意味があるとも知らず、子供のころに歌っていた。そんな昭和も20世紀も遠くなっていく。でも、遠くなっても、人口の多くを占める我々昭和生まれ。耳や目はどんどん遠くなっていくが、平成生まれに負けませんよ。否、ご迷惑をおかけします。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO61781760Z21C13A0MM8000/