あなたは何も考えず命令に従ってはいないか

(日経「春秋」2013/10/26付) 映画監督フランソワ・トリュフォー、「人は皆、自分の仕事と映画批評家というふたつの職業を持っている」。だれもが映画を語る時代はとうに終わってしまったが、それでも、時には語りたくなることがある。「ハンナ・アーレント」という映画である。アドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴し、記録を発表する。その経緯を実際にあった話にもとづいて描いている。しっかり作られた映画だ。だからこそ、関心は映画を越えてアーレントその人へと向かうことにもなる。出世のため命令をこなすだけの凡庸な男が犯した、ユダヤ人の強制収容所送りという大罪。「怪物」を凡人にしたことがアイヒマンに同情的だと受け取られ、アーレントは当のユダヤ人社会からも囂々(ごうごう)たる非難を浴びる。が、決して自説を曲げはしない。映画とアーレントが今の時代に問いかけてくる。あなたは何も考えず命令に従ってはいないか。そして、あなたは完全にあなた自身であり続けているのか、と。
(JN) ハンナ・アーレントの本は何時から読んでいるのか。彼女の書き方が良いのか、翻訳者が良いのか、翻訳ものの学術書としては読みやすい。この戦前戦中戦後と生きた、天才をどう描いているのか。彼女の映画があるとは、この春秋を読むまで知らなかった。この知らなかったことを活かし、どこからも情報を得ないようにして、何も考えずに、早く、岩波ホールに行こう。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO61666020W3A021C1MM8000/