正義の味方というなら、まず飢えている人を救わなくては

(日経「春秋」2013/10/16付) アンパンマンの物語は、幼児向けの絵本から始まったとはいえ、これほどなごやかな争闘も珍しい。善と悪とは分かれている。とはいえそこに憎悪は存在しないのだ。「倍返し」などといきり立たず、敵にさえ手を差し伸べる主人公である。こういう世界をつくりだした漫画家、やなせたかしさんの胸の底には戦争体験があった。ほんとうの正義とは何か。戦後ずっと考えつづけたやなせさんのメッセージが、作品にこもっていよう。正義の味方というなら、まず飢えている人を救わなくては――。やなせさんはしばしばこう語っていた。だからアンパンマンは自らの顔をちぎってみなに分け与える。そして、そのために自分も傷つくのだ。声高に叫ぶ正義、敵をたたきのめす正義とは違う価値観である。芯の一本通った、その人の訃報をしみじみと聞く。
(JN) やなせたかしさん、私たちに温かい話をいっぱいありがとうございました。幾つになって見ても楽しいアンパンマン、こんな人、外観が似ている人はいるかもしれないが、このような心を持ち行動できる人はそういないであろう。世の中食えない奴ばかりであるが、アンパンマンは食えちゃう、本当にかわいい奴だ。やなせさんのこの心を我々は忘れず、かたき討ちのような「倍返しなど」起こらぬ世を創りたい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO61134510W3A011C1MM8000/