日本の鉄路には夜行列車がひしめいていた

(日経「春秋」2013/4/14付) 新幹線が登場するまで、日本の鉄路には夜行列車がひしめいていた。「銀河」「すばる」「瀬戸」「明星」「いこま」「彗星」「あかつき」……。往年の時刻表を見ると、こういう列車がほぼ10分おきに出ている。酒食を楽しむのも眠りにおちるのも洗面朝食もレールの響きとともにある鉄道の旅を、無数の人が体験したにちがいない。それが時代遅れとなり寝台車や食堂車はどんどん消え、いま残る夜行はわずか数本である。そんな世を尻目に、JR九州が今秋から運行する寝台列車ななつ星in九州」が大人気らしい。7両編成で客室はスイートルームが14室だけ、贅(ぜい)を極めた「クルーズトレイン」だという。3泊4日のコースで1人最高55万円。それでも発売のたびに申し込みが殺到する。スピードアップと効率性をひたすら追求し、ときには飛行機とさえ競争してきたのが日本の鉄道である。われらがシンカンセンは世界に誇ってあまりある。けれどこの鉄道大国、それだけでは寂しいではないか。
(JN) 新幹線が全国に広がっていき、仕事も旅も、行程のぎゅうぎゅう詰めとなり、人を無理やり働かせたり、楽しませたりする。目的地に着くまで、心も体も短い時間で目的地に適用するのは敵わない。列車からの風景でも、人の生活が見えてこない。言葉の変化も味わっていけない。「贅」を極めなくとも、偶には家族そろって何をせず一緒に、同じ風景の中にいる時間をつくることも良いのではないか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO53966870U3A410C1MM8000/