つらい過去の真相を知る旅に出る

(日経「春秋」2013/4/13付) 飛ぶように売れる、とはこういう光景を指すのだろう。新作小説「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の話だ。ここまでの人気の理由は何なのか。自分が小説で語ろうとすることは何か。村上さんは、「人間は生涯に何かひとつ大事なものを探し求めるが、見つけられる人は少ない。もし見つかったとしても致命的に損なわれている。にもかかわらず我々は探し続けなくてはならない。そうしなければ、生きている意味がなくなるから」と。新作にはフェイスブックツイッターの普及を、登場人物が「よその人々について大量の情報に囲まれているのに、本当は何もしらない」と語る場面がある。モノと情報があふれる社会で生きる手応えをどうつかむか。主人公は「大事なもの」を守るため、つらい過去の真相を知る旅に出る。勇気を得る読者もいるだろう。
(JN) なぜ、私たちは小説を読むのであろうか。その魅力を恐れ読まないように心掛けているが、知らぬ間に、購入したり、借りたりしている。読み始めたら止まらない。何が楽しいのだろうか。楽しいわけではないのだろうか。何かを探しているのか。探す必要があるのであろうか。旅には出ないようにしているが、その魅力に負てしまう。負けてよいのであろう。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO53929660T10C13A4MM8000/