飛び続けたい思いが強すぎて青年は闇にのみ込まれた

飛び続けたい思いが強すぎて青年は闇にのみ込まれた
(日経「春秋」2015/3/31付) 「世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば。」(山上憶良)あえて訳せば、この世はつらいところだけど飛び去ることはできない、鳥じゃないから。およそ1300年の後に中島みゆきさんが紡ぎだした歌と、深いところで通じているように感じる。〜人はむかしむかし鳥だったのかもしれないね〜詩人たちにとって鳥のように空を飛ぶことは、かなわない思いや見果てぬ夢の象徴になってきた。だからこそ、自在に天空を舞う姿へのあこがれを美しい言葉で表してきた。一方で、実際に空を飛ぼうと苦闘した人たちもたくさんいたことを、歴史は伝えている。1903年ライト兄弟によって人が空を行き交う時代は切り開かれた。それから100年以上経過し、今、ドイツの格安航空会社の旅客機が墜落した事故。飛び続けたい思いが強すぎて青年は闇にのみ込まれたのだろうか。夢は見果てぬ夢だからこそ美しい。そんな詩人の魂があったら、と思う。
(JN) 山の壁は、彼にとっては異次元に入るための入口であったのか。何でそんなところへ飛んで行ってしまったのか。彼の心の辛さはわからない。また、一緒に飛んでいた乗客と乗務員は、何もわからず壁に向かって行った。鳥であれば、自分の力が尽きて墜落することはあるが、態々、自らの命を飛ばしてしまうようなことはしない。そこが人間と他の動物との違い、人間らしさと表現する者もいるが、そんな自殺行為が人間らしさとは、空しい。平和で、暇ができるゆえ、死のうなどと言うことを考え出すのか。私たちはこれからもずっと、この問題を抱えながらもっと高くもっと早く飛ぶことを望み続けるが、そうすればするほど、辛い世界からは逃れられない。
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO85077870R30C15A3MM8000/