今年はいつまでも寒い。わが精神も寒い。日本も寒い

(日経「春秋」2015/2/11付) 「限りなく降る雪何をもたらすや」(西東三鬼)。敗戦の年の2月もよく降った。「今年はいつまでも寒い。わが精神も寒い。日本も寒い」。作家・高見順は日記に書いた。人と人が、国と国とが信じ合い許し合う日はいつくるのか、と嘆いている。作家・高田宏さんは、不便さはあっても、雪日本育ちは、銀世界を目にすると、心が弾む。東京など大都会でも雪が積もると、雪国人は景色の変化に生き生きする。他国育ちには理解しにくい心情だそうだ(「雪日本 心日本」)。戦中の作家も、雪道で草木に射した太陽の光に、恵み豊かな明るさを感じていた。70年がたち、世の中が移っても、自然の営みは変わらない。目には見えなくても凍った地面の下は温かい。春はゆっくりと近づいている。
(JN) 日本の春夏秋冬、今のところは必ず、四季は巡ってくる。今は2月、もう少しのがまんで春が来る。雪国も春の陽射しにより、白いベールが溶かれ、様々なものが姿を現す。自然の四季は、自然に動いてくれる。今のところは、私たちの努力なくとも春は来るが、世界の戦地には私たちの意志が働かなければ、春はやってこない。戦地ばかりでなく、様々なところで春を待っているが、陽射しを抑えている者があり、春が見えてこない。春の光を独り占めしている者達は誰だ。それを知らずに持たざる者達がいがみ合っているのではないか。春の温もりを少しずつみんなで分かち合えないのか。独占者たちの姿は見えず、精神は春の陽射しで暖かくなることはなくとも、それでも、北地では雪が解け、その地には冬から春はやって来る。
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO83070580R10C15A2MM8000/