1本、そのバナナが日本で100円以上で売れている

(日経「春秋」2014/8/20付) 世界で1番バナナの輸出量が多い国はどこか。フィリピンではない。南米のエクアドルである。このエクアドルでバナナ農業に一大革命を起こした日本人がいる。大農場を経営する田辺正裕さんだ。高校生だった47年前に日本から移住し、ある時「バナナは農産物ではなく工業製品になってしまった」と気づく。農薬や化学肥料をふんだんに使えば短期で成長し、大手企業がどんどん買い取っていく。でも誰がつくっても同じなら、農業の付加価値は先細りだ。そこから孤独な戦いが始まった。茎や葉を発酵させて肥料を作り、ミミズを育てて土を豊かにする。コストは通常の2倍近くかかる。一緒にやろうと地元農家も誘ったが、手間のかかる農法に目を丸くするばかりで、誰もついて来なかった。そのバナナが日本で100円以上で売れている。1房ではなく1本の値段である。丁寧に育てれば、味と香りは格段に良くなる。買いたたかれず、高くても売れる人気商品となる。田辺農園の成功は、1次産品の輸出に頼るエクアドル経済に一石を投じた。日本国内の農業はどうだろう。消費者を驚かせる経営の革新に期待したい。
(JN) 日本の農業は、これからどんな方向に進むのか。安かろうでは、他国にもちろん太刀打ちできない。主食のコメは、高い米になっている。それが安い外米に負けないでいるのは、なぜであろうか。勿論、保護政策の御蔭であろうが、味がやはり日本産に敵う者はない。また、安全性を高めたい。口に入れるものに農薬や化学肥料を使わず、消費者の口に適切な価格で入ることをである。でも、農業生産は、現状の保護の下である限り、努力をする必要はないのであろう。一般大衆は、今のこの在り方が大事であり、窮地に立たされるか、稀にみる革新的な者が現れない限り、現在を否定して新たなことをはじめない。消費者が期待していても、革新的なことは起きないのであるから、消費者が何かを始めなければならないだろう。それは何だ。美味しくって安全なものを食べよう。自分たちの健康は自分たちで守る。そして、私たちを不健康にするものは、市場から消えてゆくようにしよう。スマホが使えなくっても、美味しいバナナを食べよう。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO75893590Q4A820C1MM8000/