項目だけはテンコ盛りで、成長戦略を錦の御旗に

(日経「春秋」2014/6/19付) 尊皇攘夷大政奉還廃藩置県、富国強兵、自由民権……。日本の近代史はこういう4文字7音の言葉でたどれると、半藤一利さんが「あの戦争と日本人」に書いている。五族協和に国体明徴、天壌無窮、・・・・・・・・八紘一宇七生報国、鬼畜米英、・・・・・・・・・・安保反対、所得倍増、政権交代・・・・・・・・・。さて目下のところ話題にこと欠かぬのは「成長戦略」である。アベノミクスの第3の矢、それを大幅改訂した注目の文書だけに政府がまとめた素案はずいぶん力が入っている。ただしよく目を凝らせば医療や農業などの「岩盤」崩しが実際にどこまで進むかはあいまいな書きぶりだ。項目だけはテンコ盛りで、成長戦略を錦の御旗に役所があれもこれもと施策を並べた観がなくもない。4文字言葉は耳に心地よく、うっかりするとその響きに躍らされてしまうのは歴史が教えていよう。そういえば今回の素案には霞が関ふうのカタカナも多い。「伴走支援プラットフォーム」「クロスアポイントメント制度」「日本版コンパッショネートユース」……。こちらは逆に耳障りだが、もっともらしさ十分である。
(JN) 音色やリズムは大事である。それに私たちは踊らされる。漢字というものは意味を含んでいるので、4文字で理解ができる。これがカタカナでは、倍以上の文字数が必要になるし、意味が解らない。その読みにくいカタカナは、異邦の言葉であり、我々は正しく理解できているのであろうか。また、その理解は部分的であり、そのことが意味する背景まで理解できていない表面的なものではないか。でも、そんなことより、中身ではないか。誰のための言葉なのか。我々の生活は、これからどうなるのか。成長戦略に従いその価値表現が上がっても、実質の生活はどうなっているのか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO72963570Z10C14A6MM8000/