短慮が、かえって「ゲン」をいよいよ有名にした

(日経「春秋」2013/8/29付) 松江市教育委員会による閲覧制限が問題になった漫画「はだしのゲン」。騒動をきっかけに読者が殺到し、いま書店では品切れが続出、図書館でもほとんど貸し出し中とあってめったに手にできない。版元は増刷を急ぐそうだ。こんなに注目される展開になろうとは、市教委は思いもしなかっただろう。市立小中学校の図書館で自由に読めないようにしていた。その短慮が、かえって「ゲン」をいよいよ有名にしたのだから皮肉というほかない。問題作なのだが、それくらいの毒は古今の文芸作品にだっていくらでも含まれていよう。そんな懸念でいちいち閲覧制限をかけていたら棚から本が消える。松江市教委は5人の委員による会議を開き、8カ月に及んでいた制限の撤回を決めた。教育委員がようやく仕事をしたわけだが、さてこの人たちはふだん何をしているのか、事務局の暴走を怒っていないのか、という疑問もわいてくる今回の騒ぎだ。時ならぬ「ゲン」ブームのなかで考えさせられることが、なかなか多い。
(JN) 私が子供のころ、この「はだしのゲン」は画面が過激で嫌いであった。最初見ただけで、その後の雑誌での連載は見ていない。嫌いな絵でもあったので、他の漫画に変わらないかとも思ったほどのものである。私は見ていないので、意見を言える立場ではないが、逆にそれだけ見たくないものがある漫画であり、戦争について考える上で、その価値があったのであろう。これを市の教育委員会が閲覧制限を加えるということに大きな批判があったわけだが、地域ごとにはそういう考えがあっても良いのではないか。そして、それが恒常的でなく、制限すべきでないという意見があれば検討をして行けばよい。しかし、それは委員会のやるべきことであり、事務局のすることではないであろうし、委員会が検討に8か月もかかることなのかは大変疑問である。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO59055030Z20C13A8MM8000/