いま直ちになすべきことがあろう

(日経「春秋」2012/12/5付) 1962年の日活映画「憎いあンちくしょう」はロードムービーの傑作といわれる。東京から九州の無医村へ、ジープを陸送する男とジャガーを駆ってそれを追う女。まだ高速道路はない。ひたすら一般道を走る旅だ。その年の暮れ、首都高がわずかな区間とはいえ開通した。以後半世紀、こんな惨事が起きるとは痛恨の極みというほかない。中央自動車道のトンネル天井板崩落事故だ。原因究明はこれからだが、浮かび上がっているのは開通から35年の経年劣化と、それを見逃してきた人間の過ちだ。この半世紀、全国に延びた高速道に、そしてさまざまなインフラに相通じる危機でもあるだろう。「憎い――」から10年後のソ連映画惑星ソラリス」には、高速道がうねる東京の光景が未来都市のイメージで現れる。わずかな間に「戦後」から「未来」へと相貌を変えた日本だったのだ。そうしてできたあまたの構造物を次代に引き継ぐために、いま直ちになすべきことがあろう。9人の非業の死がそれを訴えている。
(JN) 私たちは日本の建築技術とそのメンテナンスを信じてきた。しかし、考えてみればあの時代、突貫工事であり、経費と時間をどれほどかけてきたのかを考えれば、またその維持のために何をしてきていたのか。作ることだけを考え、使うことを忘れていたのか、と思うような今回の惨事である。今直ちになすべきことはその建造物に対しての対応とともに、それを創る者たちへ考え方の教育を徹底したい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO49191780V01C12A2MM8000/