その成功は安定して飛べること考えるのをやめたから

(日経「春秋」2014/10/20付) 19世紀末、欧米では、エンジンを使った動力飛行をめざす様々な挑戦があった。その中で1903年に米国のライト兄弟が栄誉を手にした根本の理由は何か。機体を安定して飛べる構造にすることばかり考えるのを、やめたからだという。空中で不安定になるのを最初から織り込み、機体をいかにうまく操るか追求した。人の操縦能力を生かそうと考え方を転換したわけだ。安定志向を捨て、不安定な状態が当たり前と割り切った、いわば逆転の発想だ。空の世界をめぐっては、そうした心構えが、今の航空機ビジネスにも必要なのかもしれない。世界景気の混迷で航空機の需要予測は容易でない。完成披露式のあった国産旅客機「MRJ」も先行きは楽観できまい。三菱航空機には不安定な環境の中でも人の知恵と工夫で前に進む姿を、ライト兄弟の飛行機のように見せてほしいものだ。兄弟は飛行技術がほどなく競合相手に追いつかれ、計画していた飛行機の開発・製造では成功者になれなかった。そのころから技術革新は速かった。教訓の多い2人の歩みだ。
(JN) この現在の競争社会では、安定した景気を齎すことはないであろう。常に、成功者を追い越そうと競争が展開され、成功者を足掛かりに見えない景気階段を登って行く。その行く末はわからないが、階段登りではトップに躍り出た者は様々な抵抗を受けて、順位が下がる。それを繰り返すが、やがて長く走っていた者は、余力を持っていないと止まってしまう。歴史に名を残しながら消えて行くのが常であり、多くの者は名も残せない。でも、その小さな一つひとつの競争が資本主義の世界を維持している。「MRJ」は名を残すことができるであろうか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO78613160Q4A021C1MM8000/