ある種「解禁の喜び」、恵方巻き

(日経「春秋」2014/2/3付) ずしりと重い太巻きのすしを丸かじりする。ある種「解禁の喜び」なのだと東海林さだおさん。すっかり日本中に広まった恵方巻きのことだ。きょう1日でどれくらい売れるだろう。始まりは関西らしい。そもそも土用の丑のウナギや大みそかの年越しそば等々、この国の行事食のにぎやかさといったら並大抵ではない。知られざるローカルな風習も残っていて、たとえば関西の一部では夏至から11日目の半夏生にタコを食べる。コンビニ業界などは次のブームは何を、と虎視眈々(こしたんたん)だろう。とはいえ、これほどのヒットはなかなかあるまい。向田邦子さんの「父の詫び状」にいい話がある。遠足の日の朝、母が海苔巻きを作る。そのときに出る端っこを、父親が新聞のかげから手を伸ばして食べてしまうのだ。海苔と具が多くて好きなのに、くやしい……。丸かじりの喜びを味わわせ、端っこのしみじみ感を感じさせ、この食べ物、じつに芸域が広い。
(JN) 恵方巻きの一気食いなんて、本当に最近始めた習わしである。やっていなかった頃とやってからで特に違いはないのだが、こういうこと特に食べての験かつぎは楽しい。日ごろ食べないものを食べられる楽しみも良いので、こういったものは増えてよいのではないか。八万の神々を信ずるゆるい民は、信じずる振りして何でも導入することができる芸域の広い民である。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO66267480T00C14A2MM8000/