まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている

まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている
(朝日「天声人語2015年5月6日(水)付) 九州在住の俳人、岸原清行さんの一句「野分波軍艦島は航く如し」。長崎市沖に浮かぶ端島は、軍艦島の方が通りはいい。周囲約1・2キロをコンクリートで固め、高層住宅がひしめく海底炭鉱の不夜城だった。最盛期には5千人以上が暮らしたが、1974年に閉山した。その軍艦島など、日本の近代工業化の礎となった施設が「明治日本の産業革命遺産」としてユネスコ世界遺産に登録される見通しとなった。「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている」(『坂の上の雲』)。登録となれば、欧米を仰いで坂を駆けた有名無名の先人を振り返る機会にもなろう。一方で負の側面もある。自国民が強制労働させられた施設があると韓国は、反発している。たとえば軍艦島など、観光資源の期待もさることながら、島の記憶をじっくりたどれるような残し方を探れないだろうか。暮らした人の悲喜を濃密に吸った島である。知るべきことは多い。
(JN) その閉ざされた状態から、海外列強の恐怖の中で、駆け足で国を整えた明治という時代、それは良いも悪いも歴史である。その歴をどう解釈するか、そのためにも、「明治日本の産業革命遺産」は世界遺産として登録されても良い。ここでは、その歴史的意義とともに、この産業革命が進むその陰で多くの人たちの犠牲があり、生成発展が成り立っていることを明らかにすべきである。また、民主主義という道具を一部のものが利用し、あの第二次世界大戦を引き起こし、その敗北により「実に情けない姿をさらけ出した」(和辻哲郎)ことを深く反省することが必要である。今の私たちの暮らしは、様々な人々を犠牲にして成り立っていることを忘れないためにも、「まことに小さな国」の人々だけでなく世界の遺産とすべきである。日本の民主主義の開化のためにも、世界遺産を考えてみよう。