トランクの中の日本

(日経「春秋」2014/8/25付) 占領軍の一員として日本に上陸した米国の従軍写真家ジョー・オダネルさんは福岡の農村で、ある墓を見る。木で手作りした十字架に、「米機搭乗員之墓」とある。ある市の市長宅でごちそうを振る舞われる。奥さんが作ったのだと考え「奥様にお会いしたい」と請うと、市長は穏やかに答えた。「1カ月前の爆撃で亡くなりました」。オダネルさんは動揺し、おわびを述べ、逃げるように宿舎に帰った。敵国日本を憎み軍に入ったオダネルさんは、こうして現実の日本人と交流を重ねる。教会で仲良く並ぶ米兵の靴と日本人の草履を見て、このように皆が平和に暮らせればいいと思うようになった。撮影された写真と体験記は「トランクの中の日本」という題で出版され、2007年の没後も増刷されるロングセラーになる。オダネルさんの場合も市井の日本人が元敵兵の価値観を変えた例だ。
(JN) 戦争の中で、一般大衆最前線から銃後まで、苦しみ敵国をうらむ。でも、皆、戦争を起こした者の犠牲者である。更に、日本人は、終われば水に流す。これが美しくもあり、危険性を持っている。これを米国人は、どこまで理解をしたであろうか。私は、日本人も米国人も理解できていない。それは、難しいであろうが、米国人の目から見た日本を確認したい。50年間トランクの中に眠っていた写真を、私はまだ見ていない。
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