谷口吉郎は、日本の文化の巧みな使い手だった

(日経「春秋」2014/8/18付) 明治時代の建造物を移築した愛知県犬山市博物館明治村は来年で開業から50年になる。貴重な古い建物が取り壊されていくのを惜しみ、この野外博物館の構想を描いた谷口吉郎は、明治建築の何にひかれたのだろう。明治村に集めたものは、日本で育まれた素材や意匠を西洋建築に上手に織り込んでいる。そこに谷口の視線は注がれていたのではないか。彼自身、日本の文化の巧みな使い手だった。評価が高いのがホテルオークラ東京の本館メーンロビーだ。和洋が調和した世界を創り上げたのは明治村が開業する3年前のことだ。本館は老朽化で38階建て高層棟への建て替えが決まった。今のメーンロビーがなくなるのを残念がる声は外国人からも多いが、ホテルに聞くと新しい本館も日本の伝統美を受け継いだ造りにするそうだ。基本計画づくりには谷口の息子で建築家として数々の受賞歴がある吉生氏が加わる。父を超える和の空間を期待したい。
(JN) 過去の貴重なものを残して行きたい。でも、現実には、それを古いものとして、スクラップして行くしかないことは悲しい。最近はでデジタル技術が発達して、様々なものがデータとして残すことができるようになり、現物は無くなっても、それを視聴覚で捉えることができるようになった。しかし、現物に勝るものはない。何とか保存できないものであろうか。建物となるとそれは尚更であり、それが空間を占領してしまう。更なるデジタル技術の発達で、立体的なものも現物のように空間を経験できるようになるであろうか。光や空気も感じられるものができるであろうか。何れにしても、現実の世界はスクラップ・アンド・ビルドで、古いものは消えてゆく。古きもの、それが良いものであろうとそうでないものであろうと壊されるが、そこから全く新たなものがつくられるわけではない。私たちは過去の財産の上に、新たなものを重ねていくのであろう。私たちは、その重ねる場所が確かな場所であることを見出すために、過去の歴史と今残る現物を確りと見つめよう。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO75786490Y4A810C1MM8000/