コツコツと同じ作業を繰り返して技能を覚え

(日経「春秋」2013/10/31付) 高校に進学する女子は3人に1人。男子も2人に1人は中学を出ると働き始めた――。日本が経済発展に向かう前の1950年。戦後の復興半ばのなかを、汗を流して働く若者たちの姿が浮かんでくる。そのころ多摩川河川敷のグラウンドで、2軍の投手を相手に打撃練習に励むプロ野球選手がいた。「ボールが止まって見えた」、「打撃の神様」として球史に名を残したこの選手はもちろん、巨人の背番号16、川上哲治氏だ。学校を出た若者は工場でコツコツと同じ作業を繰り返して技能を覚え、これが企業の品質や生産性を高めて高度成長の礎になった。川上氏も反復練習を黙々と重ねるなかから「ボールが止まって……」の感覚にたどり着き、監督としても9連覇を果たした。川上氏は監督をやめて巨人のユニホームを脱いでから、少年野球の指導に力を注いだ。ここでも大事にしていたのは反復だった。一時代を築いた選手の訃報だった。
(JN) 「打撃の神様」が無くなったというが、私は55年生まれゆえ、現役選手の記憶はない。「石橋を叩いて渡らない」監督の川上氏しか知らない。川上監督のジャイアンツの9連覇はオイルショックを迎えるまでの高度成長と重なり合う。イケイケどんどんの陰で、グラウンドの泥まみれの練習と、組織の組み立て、地道な努力がなされていた。この反復の基本は野球だけのことではないであろう。この努力とともに諦めない精神を日本は忘れかけているかもしれない。この精神があったのが星野ゴールデンイーグルスかもしれない。否、原ジャイアンツか。川上氏のご冥福を両チームの激戦で供養としたい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO61900210R31C13A0MM8000/