普段は観察できない現象を見つけ出す

(日経「春秋」2013/10/18付) 薄いガラスでできたフラスコや試験管を、どうしても優しく扱えない学生がいる。机の上の勉強が得意でも、すごい発見をする研究者になれるとは限らない。実験は、上手な人と下手な人の差が大きい、とノーベル化学賞を受けた鈴木章さん。では実験がうまいとは、どういう意味なのだろう。既に分かっている事実を確かめるのではなく、何が起こるか分からないから、とりあえず試してみるのが実験であるはずだ。日本経済を元気にするアイデアとして、国家戦略特区が議論されている。経済の「特区」は化学の「実験室」に似ているかもしれない。日常空間とは違う極端な条件を人工的に作り、普段は観察できない現象を見つけ出す。ひとたび白衣で実験室に入ると、水を得た魚となって、見事な成果をあげる学生がいるという。そこが日常と隔離された特別な部屋だから、好奇心と冒険心が解き放たれるのだろう。そんな経済の実験室ができるとよい。
(JN) 現在の異常気象にも我々は戸惑う。私たちは、いつもと違うことが起きることを忘れ、規則正しく四季がやってくると思い込んでいる。我々の住むこの自然はそんな単純なところではない。この世界が無常な世界であることの認識をもって、小さな世界における短い常を見出すのが科学なのであろうか。我々の生活圏内でのごく小さなパターンを見出す心と眼が必要だ。そのためには、整った部屋で勉強するのも良いが、何もない野原で多様な人たちと自由に何かができる好奇心溢れる生活が必要だ。例えば大学は、それを身を以て体験するプログラムを準備すべきである。実験室に入る以前に、考え方が大事である。今に対する意志の持ち方だ。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO61247200Y3A011C1MM8000/