地名とは「日本人が大地につけてきた足跡である」

(日経「春秋」2013/8/27付) 文芸評論家、山本健吉が戦後日本の三大愚行を挙げた。(1)旧仮名を新仮名にしたこと。(2)尺貫法をメートル法に変えたこと。そして(3)住居表示法施行による地名の改悪。前ふたつは愚行と決めつけがたいが、地名改悪だけは「その通り」と両手を挙げて賛成する。山本の話を「私の履歴書」で紹介した民俗学者谷川健一さんが死去した。谷川さんは、地名の安直な改竄(かいざん)に憤り、古い地名を守るため力を尽くした。市民組織の「地名を守る会」と研究機関の「日本地名研究所」をつくり、このふたつを拠点に行政の施策に抗する活動を続けた。本人は「長年の努力をあざ笑うような奇妙奇天烈な地名の横行」を嘆いていた。地名とは、「日本人が大地につけてきた足跡である」「もっとも身近な民族の遺産である」「時間の化石である」「大事にされないのは水と同じである」。谷川さんは言葉を変えて繰り返し訴えた。足跡を消し化石を壊せば取り返しはつかない。92年の生涯は、奇妙な名にあぜんとしながらの喪失感との闘いでもあったか。
(JN) 古からのそこの地名は、そこの特徴をも表すことがあり、我々が生活をする上で大事である。そういう意味で、そこに住居を作ることが不適切であるような地名をモダンな地名にしてしまえば、他の地域の人にはわからず、その不動産を購入してしまう。資本主義になせる業である。先週末に京都へ行きその地名の長さと漢字の多さに少々閉口したが、これがその土地の名前なのであろう。伝統をどこまで守って行けるか我が日本、まだまだ変身を遂げて行き、どうなって行くのであろうか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO58965940X20C13A8MM8000/