「冷製麦酒」、「胃を健やかにする」

(日経「春秋」2015/1/11付) ビール競争の歴史は古い。明治に入るや輸入品が広がり始め、横浜には外国人が相次ぎ醸造所を設けた。後にサッポロビールになる「開拓使麦酒醸造所」も参戦する。札幌にできた官営工場だ。官営工場の売りは、低温でじっくり発酵、熟成させ、「冷製麦酒」と銘打つ。「胃を健やかにする」とうたった。意外なのは、技術に通じていた外国人経営の醸造所が成功しなかったことだ。米国人が創業した酒造場とドイツ人が興した醸造所は500メートルも離れていなかったため、互いに対抗意識を強め、安売り合戦に突入する。共倒れを防ぐため合併したが、仲たがいし最終的に倒産に至った。価格競争が不幸な結末の始まりだった。ビール大手4社の今年の事業計画では、どこも独自製法や高品質原料の製品に力を入れる。問題は値段の戦いに陥らずに済むかどうかだ。日本のビールの歴史を振り返れば、技術を安売りしないことは草創期からの課題だった。各社の知恵やいかに。デフレから抜け出るためにも注目だ。
(JN) 食事の前のこの一杯、乾杯、とりあえずこれから。この苦いビールがなぜ人に好まれるのか。この一杯が至福の時を与えてくれる。この幸せの追究に人々が鎬を削る。しかし、このビールというものは、一般大衆にとって、日本酒や焼酎などと比べると、値が高いし、栓を開けると飲みきらねばならない。だから、美味しいビールを飲みたいが、家庭での地位の低いお父さんは、価格競争を喜び、また安い偽物で我慢をするのである。資本主義の世の中である以上、企業は生き残りのための努力が優先となる。その中で、良いものを守るのは難しいのかもしれないが、そこは消費者であるお父さんかもしれない。私たちの意識改革で、安物多量消費から良いものを味わうための精神革命をして行かねばならないのであろうか。心も胃袋も健やかに。
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO81838770R10C15A1MM8000/