「おいしい生活」

(日経「春秋」2013/11/29付) 「金曜日の妻たちへ」のシリーズが始まったのは1983年だった。ちょうど30年前になる。視聴者をもの憂くおしゃれな空気に浸らせた、この不倫物語は大ヒットした。登場する男女はニュータウンに住み、よくホームパーティーを開く。社会が70年代まで引きずっていた貧乏が消えたのだ。当時の西武百貨店のコピー「おいしい生活」ほど、そういう時代の感性を表すものはない。それを先導したセゾングループ創業者、堤清二さんが亡くなった。西武王国をつくった父親との確執、共産党入党と離脱、結核療養、詩と小説への接近……と書き並べるだけで波乱の若き日々が浮かび上がろう。バブルとその崩壊を経て、しかし世の中はずいぶん変わった。セゾングループ解体を促したのは、セゾン文化を享受しつくした大衆でもあっただろう。近年はもっぱら作家・辻井喬として活躍していた堤さんだが、胸中は複雑だったに違いない。
(JN) 「おいしい生活」、30年前、現在の日本をどの程度想像できていたであろうか。金融の脆さはわかっているが、こう変わるとは。セゾングループは紆余曲折して解体したが、リブロや無印良品は健在である。ブロと無印良品ができたのは、堤清二ではなく辻本喬のおかげであろうか。辻井喬氏は小説家としてはどうであったかわからないが、当方にとってはこの二つが大変身近であり、利用度が高い。堤氏と辻井氏に感謝したい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO63314970Z21C13A1MM8000/