結局は画商の欲がピカソやマチスをナチスの蛮行から救った

(日経「春秋」2013/11/6付) 芸術の頽廃(たいはい)に抗して。ミュンヘンで1937年にあった「大ドイツ芸術展」の開会式の様子を、ナチスドイツの宣伝相ゲッベルスは同年7月の日記に残した。これは若くして画家の夢破れたヒトラーお気に入りの美術品ばかり集めた御用展だったわけだが、その翌日、今度は「頽廃芸術展」がミュンヘンで始まった。頽廃芸術はやがて国外に売り飛ばされたり、焼かれたりしていく運命にあった。ヒトラーは前衛的な現代美術を毛嫌いしたというから、名前の出ているピカソマチスシャガールなど頽廃画家の代表格だろう。母方がユダヤ系の画商は、ゲッベルスらの片棒を担ぎながらも、頽廃芸術に魅せられた男が目を盗んで物置に作品を私蔵した。そんな筋書きを想像しつつ、発見まで70年近くたってはいても、結局は画商の欲がピカソマチスナチスの蛮行から救ったのだ、と考えたりもする。
(JN) 芸術に対するその価値の捉え方は、我々それぞれ異なっている。それを権力者や宗教等によって評価されることが、過去において存在し、そのたびに遺産を失ってきた。それは悲しいことであるが、それに負けずに作品を以て闘うのが学芸であろう。権力に抗してこそ学芸であろうか。否、欲が様々な蛮行から救う。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO62170690W3A101C1MM8000/