周到に世の中を欺き続けてきた

(日経「春秋」2014/2/7付) 探偵小説家の横溝正史は、先輩格である江戸川乱歩の代作をしたことがある。内容が劣るといった批判はとくになかったようだ。そのころ20代の横溝は、作家として独り立ちする自信を持ったことだろう。もちろん代作は大問題だが、人気作家が世に出るステップになったと思えば、非難したい気持ちも和らいでくるというものだ。ところが今回のゴーストライター騒ぎは、なんとも嫌な気分になる。作曲家の佐村河内守氏が音楽家の大学非常勤講師に曲づくりを依頼して、自分の作品として発表していた問題だ。講師は20曲以上をつくって約700万円を受け取ったという。周到に世の中を欺き続けてきたわけだ。「希望のシンフォニー」と呼ばれ、東日本大震災の被災地で親しまれてきた交響曲も代作という。佐村河内氏が聴力を完全に失ったと言っていることに疑問も出ている。代作がわかってもファンの心が離れなかった乱歩や横溝とは、まるで違う。
(JN) 佐村河内守氏の代作について、世間の目は厳しい。それは単なる代作ではないからであろう。耳が聞こえないということでの作曲活動に人の思いはあり、更にその耳が聞こえないこと自体が偽りであるとのこともある。それにしても、なぜそのようなことを知りながら新垣隆氏は作曲を続けたのか。どこまで誰がこの秘密を知っていたのか。この偽りを共有していた者は同罪である。人の思いを裏切るような芸術は消し去らねばならない。私も頭の中ら交響曲第1番を抹消します。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO66490490X00C14A2MM8000/